「お金がたくさん欲しい!!」と思うことって多いですよね。私もお金がたくさんあれば、欲しいゲームを目一杯買えるのになあと思ってます。そしてもう一つ、「悪いことをすれば簡単にお金が稼げるのでは?」という恐ろしい考えをしてしまうことも時としてはあると思います。
そんなあなたにおすすめしたいのが『ブレイキング・バッド』です。きっとこの作品を見れば、犯罪の世界に足を踏み入れる恐ろしさを体験できると思います。
『ブレイキング・バッド』は、家族のために金を作ろうとする冴えない高校化学教師の「ウォルター・ホワイト」が「ジェシー・ピンクマン」という麻薬精製をしていた元学生と出会うことで、転げ落ちるように犯罪者となっていくお話です。脳性マヒの息子と、いずれ生まれてくるであろう子供がいる中で肺ガンを宣告されるウォルター。それが全ての始まりでした。
麻薬取締官の義兄ハンクの話から麻薬は大金を動かせると知ったウォルターは、自分の死後も家族がお金で苦労しないように麻薬精製で資金を作ることを考えます。高い科学知識を持つウォルターには、麻薬精製の才能があってしまったのです。しかし、この麻薬精製が原因で命を狙われて最悪の事態が起きてしまい……。というのが概要です。
ちなみに、1話で上半身もろ出しの女性が映ったり、普通に濡れ場があったりなどのエロ描写があります。あとエグい死体などのグロ描写もあるので、決して万人におすすめできる作品ではないので注意です。ガッツリとエログロが描写されるので、それらが苦手な人はかなり厳しいかも。実際私は、シーズン1の「あの掃除シーン」がクレープを作って食っているときに始まって死ぬかと思いました。具合悪くなるわ!!
※以下には、『ブレイキング・バッド』シーズン1~2までの軽いネタバレを含みますので、ご注意下さい。
一度踏み込むと引き返すのが難しい恐ろしい犯罪の世界
有能な人間でありながら、自らが進んだ道によって貧困な生活を余儀なくされたウォルター。彼は劣等感やプライド、そして周りへ迷惑をかけたくない気持ちから誰にも相談せずに、麻薬精製という形で解決を図ってしまいます。そこに更に犯罪への罪悪感が乗っかることで、彼は尚の事雁字搦めになっていきます。
ただ、ウォルターは決して高飛車な人間だということはなくて、「周りに迷惑をかけたくない」という善意から周りを頼らないようにしている部分も大きいのです。彼は皮肉にも、どうしようもない犯罪を経てしまってから大学時代の友人から会社へスカウトされたり、ガン治療の病院を紹介されたりと人生が正しい方向に回り始めます。これが本当に辛い。また作中で「まだ引き返せる」と相手に言われるシーンが有るのですが、そこがウォルターにとってターニングポイントになっているのもまた……。
本作には2つのターニングポイントがあったと思います。1つは先程の「まだ引き返せる」のタイミングで自首すること。もう1つは、ガンが告知されたときに周りへ相談することです。
そんな色んなボタンの掛け違いで、自らの犯罪を止められなくなっていくウォルター。彼が不本意ながらも犯罪に手を染めていってしまうのは、決して許されることではありませんが見ていて辛いです。しかもその後に、ガンのことを皆に打ち明けて心配されるのがまた胸が締め付けられる。
ウォルターは結局自分一人で抱え込んだ結果、全ての罪を隠して生きる必要が出てしまいます。結果論でしかないかもしれませんが、ウォルターを囲う人間たちはみんな彼のことを想って力を貸してくれる人間ばかりでした。それもきっと、ウォルターが真面目に生きてきたことの賜物だったのだと思います。ですが、それを無下にしてしまう道に進んだのもウォルター自身です。
一人で抱え込むことは、ときとして悲劇を引き起こすのかもしれません。「誰かを頼りたくない」というのは、弱いと思われたくないという気持ちから来ている部分もあるのかもしれないと身につまされます。ただ真面目に生きる人の周りには、本人が気づかないだけで手助けしてくれる人が現れているのかもしれませんね。
ウォルター自身も、様々な犯罪を経て徐々に嫌いな相手に対する嫌がらせなど犯罪を躊躇なく行うようになっていきます。罪悪感に苦しむ反面、何処か今まで以上に自由で開放されたような表情も見せるウォルター。善良で真面目だった男が、徐々に犯罪を行うスリルにもハマっていくのも恐ろしいです。
何故一度でも犯罪を犯してしまうのがまずいのか。それは、今作の中で明確に示されていると思いました。それは、「底なし沼のように自分の意志で抜け出せなくなっていくから」なのでしょう。犯罪者たちがひしめく世界で自分の大切なものを守るためには、結局過激な犯罪の道に進むしかなくなってしまう。そんな地獄のような事象が起きてしまうのです。
こうした犯罪者視点の作品を見ていると、『デスノート』を思い出します。あちらも自らの引き時を見誤った結果、当初の「犯罪者を裁く」ことより自分への追手を殺すことに終止してしまいます。本来の「目的」よりも、自分たちを守るための「過程」に力が入っていくことも犯罪の恐ろしいところですね。
私はまだシーズン2の途中までしか見られていませんが、もしも自分の精製した麻薬が家族や友人の元にまで迫っていったら? 義兄が自分の犯罪に肉薄したら? 彼らは自らの下した判断で自分の大切な人を傷つけてしまったときにどうなるのでしょうか。いつか来るであろう、そんな最悪の邂逅が怖くて仕方ありません。
この作品は、間違いなくフィクションです。ですが、自分たちも同じように犯罪に手を染める機会がないのか。ウォルターのように、偶然自分の専門分野が犯罪で活かせてしまわないかなど、とても他人事には思えない内容でした。
「貧困」と「麻薬」というシビアでリアルな世界の問題
本作では「貧困」や「学歴差別」による麻薬売買の現状も示しているように感じます。結局犯罪を犯すきっかけというのは人からすれば些細なことで、それでも本人たちにとってはどうしようもないことです。一度でも人生の道を踏み外した者は、転げ落ちるように犯罪の世界に引きずり込まれていく。
それを本人が望んでいるわけではなくても、這い上がる方法も理由も無い。犯罪者を囲う人間たちは、彼らの更生を妨害して犯罪の誘惑をしてくる。それらを断つのはあまりに困難であるんだということがよくわかります。
本作の主人公の一人であるジェシー・ピンクマンもまた、自分の弟を想って大麻? (ハッパ) をやめさせようとしていたり、麻薬売買が危険な道だと気づくとキッパリ辞めようとしたりと決して人間として道が外れっぱなしのキャラクターではありません。実際、ウォルターと起こしてしまった事故の処理や、殺人は拒否したりと非常に人間的な反応を示しています。
それでも、ウォルターと同様に彼もお金が無ければ生きていけない状況に何度も追い込まれていきます。人生をやり直したいと感じている反面、犯罪の誘惑を断ち切れない部分もあるのが現実にもあり得るシビアな問題を示しています。
本作は、「普通」から隔絶されてしまった人たちや、「普通」に生きてきたはずなのに貧しさから脱することが出来なかった人間たちなど、現代における様々な問題をストレートに描いています。また、薬物乱用にはまってしまった人間たちがどうなっていくのかも、ストーリー中で示されていました。
『ブレイキング・バッド』から学ぶ「犯罪」と「麻薬」の危険さ
本作は決して「ドラッグを売れば儲けられる」という話ではないと思いました。本作から少なからず私が学んだことは、以下の3点でした。
・犯罪やドラッグは、一度足を踏み入れると戻れない底なし沼である。
・善良に生きることは、地味ながらも周りの信頼を勝ち取ることにもなりうる。
・苦しいときに一人で抱え込まず、誰かを頼ることで変わることも多い。
教育現場で流すにはあまりに過激なシーンが多すぎるので厳しいかもしれませんが、「犯罪」や「麻薬」といったものに傾倒していくことがどれほど恐ろしいのか。それを嫌というほど追体験出来るドラマです。
実際の麻薬売買や犯罪現場はもちろん知りませんが、ニュースなどで見る限りは本当にこういうことが日常的に起こる世界なのだと感じてゾッとします。決して軽い気持ちで踏み入れて良い領域では無いです。
本作を見たあなたも、どうか悩み事を一人で抱え込まずに誰かに相談してみてほしいなと思います。そして、どうか全てを投げ出して犯罪を犯してしまわないことを祈っています。最後まで諦めなければ、もしかすると活路が意外な所に眠っているかもしれません。
ここまで怖いことばかり書きましたが、ウォルターがジェシーを傷つけた相手に化学の力で反撃するシーンは格好良いですし、純粋に化学の面白さも知ることが出来る作品ですよ!
ちなみに、『ブレイキング・バッド』はシーズン5で完結しているようなので、これから見る方も最後まで楽しめると思います。気になった方は是非視聴してみて下さい!